電力不足―停電より「計画節電」を
この1週間、関東圏は計画停電に振り回された。大震災と原発事故で被害を受けた社会生活と経済に停電が追い打ちをかけている。
だが、冷静に考えてみれば、現在の電力不足のもとでも停電をなんとか避ける手立てはある。石油危機の当時、電気事業法第27条に基づいて実施した総量規制などの手法で節電を徹底することだ。
家庭も企業も、使う電力の総量を抑制するだけでなく、ピーク時の電力消費を抑える。そうすれば、停電しなくて済む。政府主導のもと、社会全体で取り組む「計画節電」である。
停電より節電のほうが、家庭にも企業にも損害は少ない。政府は経済界やさまざまな消費者の声を聴いて早急に踏み切るべきだ。
実施中の計画停電は、停電それ自体が生活や経済活動に打撃となるうえ、抜き打ち的な実施方法や方針の変更もあって、交通機関や病院、学校などあちこちで混乱と深刻な影響を引き起こしている。
信号機が止まった交差点での死亡事故まで起きた。IT関連企業の中には、関東圏からの脱出を検討するところも出てきそうだ。
電力不足がある以上、消費を減らす以外に手はない。だが、受け手がどうしても使いたい機器と、そうでないものを選べるという判断の余地を残した「節電」のほうが打撃は小さく、賢明なやり方ではあるまいか。
例えば稼働するエレベーターを減らしたり、生産ラインの一部を休止したりする。操業を短縮して帰宅を早め、家庭では夕食を早く済ませて、早く寝る。操業の一部を土日に移す。学校の春休みを長くするのも一案だろう。
さまざまな努力を積み重ねれば、かなりの節電ができる。
電気事業法では、政府が強制的に電力使用を制限することができる。1974年の第一次石油危機で発動された時は、一定規模以上の事業者は電力の使用量を15%削った。もちろんネオンなどの照明も抑制した。
今回は、最大時で1千万キロワットの不足に対応することが当面必要で、もっと大がかりな長丁場の節電に域内の誰もが取り組む必要がある。
このため経済産業省内には「守ってもらえる確証がない」との反対論があるが、菅直人政権が指導力を発揮すべき重要な場面だ。
経済同友会は緊急アピールで「計画停電に代え、総量規制を」と訴える。今でも節電の効果で停電がかなり見送られているのだから、使う側の知恵と努力をもっと信じてはどうか。そのうえで、どうしても足りなければ、最小限の計画停電で補えばよい。
危機を克服するには、国民の節電意識をさらに高める政策こそが有効だ。
(2011年3月20日 朝日新聞 社説)