日本人の体温低下に塩が関係 ―『体温力』抜粋
――1950年代にアメリカのダールという医学者が日本に来て、鹿児島から青森まで疫学調査を行ったところ、鹿児島の人たちの一日一人当たりの塩分摂取量は約14グラムで、北上するほど多くなり、青森の人たちは約28グラムと鹿児島の人たちの2倍も摂取していた。
北に行くほど高血圧や脳卒中で倒れる人々も明らかに多かったことから、塩分=高血圧=脳卒中の図式ができあがり、1960年ごろから、秋田、青森を中心に減塩運動が始まり、全国に展開していった。医師も栄養士も、マスコミも、塩こそ悪者とばかりに目の仇(かたき)にした結果、日本人のほとんどの人が「塩=悪」という考えに呪縛されている。
しかし、東北地方をはじめ、寒い地方の人々が塩分を多く摂る傾向にあり、また、「関西のうす味、関東の濃い口」という言葉が存在するように、東日本の人ほど塩分を好むのは塩には体を温める作用があるからだ。
―― 「塩分有害説」は、とても珍奇な学説と言わざるをえない。フランスやイギリスをはじめ、ヨーロッパの国々では、古くから「タラソテラピー(Thalasso=海の、Therapy=療法)=海洋療法」なるものが存在する。つまり、海水の風呂に入れたり海泥でマッサージしたり、海水そのものを飲用させる等々の療法である。フランスではタラソテラピーが健康保険で受けられる。
激しい嘔吐や下痢をすると、脱水症状を起こす。このとき、水やお茶を飲むと、さらに嘔吐や下痢がひどくなることが多い。なぜか。
嘔吐や下痢で、水分の他にも胃液や腸液に含まれている塩分も同時に喪失されてしまう。人間の体にとっては水分より塩分のほうが重要なため、水やお茶で水分を体内に補給しても水分で塩分がさらに薄まってしまうため、あえて嘔吐や下痢で水分を出すのである。これを医学的用語で「自発的脱水」と言う。このとき、生理的食塩水を点滴すると、ピタリと嘔吐や下痢は止まる。このように、塩分は生命にとって必須の栄養素なのである。
――「塩」の効能は、
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殺菌力がある(食物の保存性)。
A
旨味を出す(肉や魚の身を引きしめる)。
B
体を温める。
C
体液の浸透圧を一定に保ち、水分の代謝や体液のpH(酸―塩基平衡)を維持する。
D
神経の興奮・伝達に関与する。
E
筋肉の収縮に必須(不足すると痙攣を起こす)。
F
胃液、腸液、胆汁など消化液の原料になる。
G
食欲を増す。
H
体内の有毒物質の解毒。
などが知られている。
Na(ナトリウム)とCl(塩素)から科学的に合成される食塩(NaCl)よりは、NaやClの他、Mg(マグネシウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、I(ヨード)等々、約100種類のミネラルを含む粗塩(天然塩)のほうが健康によいのはあたりまえである。しかし、合成の食塩でも@〜Hの効能にあずかれる。
――呼吸を3分止めれば死に至るほど大切な酸素(空気)も、吸いすぎれば過呼吸症候群に陥り、手足のしびれや痙攣、失神を起こす。よって、「呼吸」は文字どおり「呼(は)いて、吸う」のが健康なのである。
宇宙の原則も小宇宙であるわれわれの体も「出す」ほうが先になることで、健常性が保たれている。「呼吸」「出入口」「出納帳」「give and take」「オギャーと吐きながら生まれて、息を引きとって、死ぬ」と言われる如くである。
また、塩も体外へ出してからしっかり摂り入れると、体に悪いどころか@〜Hの恩恵に存分に浴せる
塩分と水分とは一緒に行動するので、日ごろから肉体労働、運動、サウナ、温泉等々でよく発汗し、あとに述べるニンジン・リンゴジュースやショウガ紅茶で十分に水分を摂って排尿(塩を出す)すれば、塩は本能の命ずるまましっかり摂ってよいのである。
(抜粋終り)