イナンナの真実

 

V.S. ファーガソン  著

小 松 英 星   訳

 

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 彼らは、永遠の虚空の果てしない漆黒に包まれていた。上も下もなく、後も前もなく、始めも終わりもなかった。彼らには、テル・ダールが堂々として燦然と輝く美しい存在に見えた。この慈悲に満ちた存在から、限りない英知と完全に調和した純粋な愛が、リン光性の光子でできた黄金の虹の連なりのように放射されていた。

イナンナは、他の人たちはこの威厳のある存在を前にして、いくぶん口ごもってしまうのではないかと感じたので、自分から口を切った。「テル・ダール、私たちはあなたに質問があってやって来たのです」

「そうだね、イナンナ。あなたの心や考えはわかっているよ。ここへ来た理由も。それで、あなた方の勉強を助けてもらうために、私の友人のタザタを招いておいた。タザタのことは、もちろんジェーランやモーツァルト氏はよく知っているはずだね」

「質問というものは、それ自体が答えを刺激するようにまとめれば済むことだが、」テル・ダールは説明した。「質問を組み立てる過程が、魂にとって最も骨が折れる部分だよ。次に答えを聞く耳を持たなければならないが、それは別の話だ」

若くて我慢ができないマイケルは、うっかり口に出して、「公園で私たちが見た、あの光の乗り物はいったい何ですか」UFOについてのあらゆる疑問が、自分に起こったアブダクションとマチュ・ピチュでの幻影のこと以来、彼の心の中で渦巻いていたのだ。

テル・ダールは言った、「あなた方が目撃した光の乗り物は、ホログラム的な思考形態で、惑星地球をワナから解放したいと思っている、進化した存在たちが設定したものだ。とほうもなく長い期間、地球の住人たちは、《安堵と恐怖の両極性》として知られる狭い波動域で繰り返すサイクルの中に、実質的に閉じ込められてきた」

「惑星地球の住人たち、つまり人類は、全宇宙で唯一の存在だと何百年間も聞かされてきた。もちろんこれは馬鹿げているが、自己中心的で狭量な自己讃美傾向を助長する効果があり、それが結局は偏見や抗争そして戦争をもたらしたのだ」

「惑星地球に住んでいる人類が、広大な創造の中には無数の他の文明が存在していることを理解できたとしたら――実際に近々その通りになるのだか――彼らは自己中心的な自己讃美を超えて進化し、何かと敵対する傾向を卒業するだろう。そして必然的に、他の種族にもっと寛容になるだろう」

テル・ダールは話を止めて、タザタとジェーランに合図した。タザタが代わった。

「この惑星で人類の営みが始まった頃、ここに転生してきた魂のなかには、三次元領域での人生の不安定性にたちまちうんざりした者たちがいた。大型の肉食獣に絶えず忍び寄られる不快な経験に、一部の者はとりわけいらいらさせられたし、絶えることのない戦争や集団殺戮は、多くの者にとって苦痛で、それは三次元世界に肉体を持って得られる報酬に見合わなかった」

ジェーランは言った。「これら特に苦痛を感じた魂の多くはたいへん利口だったが、率直に言って怠け者だった。彼らは、肉体に宿ることを拒否して、物質世界の外側に留まれば、同じ仲間の兄弟姉妹たちの魂を傍観できることを知った。そして彼らは、観察しているうちに、三次元体験を買って出る勇気を持った者たちが放出する、霊的・感情的エネルギーを利用できることを発見した。こうして、これら怠け者たちは、彼ら自身の目的のために、他人の感情を吸い上げてエネルギーとして利用することを会得したのだ。そしてついに彼らは、彼らの思念を、そのエネルギーを利用する現実として投影することによって、彼らの王国を造ることを覚えた――これらの王国は、天国や地獄として知られるようになる」

普通なら大抵の人が絶望的な恐怖感に襲われる部分を、ジェーランが上手に伝えたのを見て、タザタが再び口を開いた。「われわれ開化した者たちは、これら怠惰な魂たちのグループが造った王国のことを虚構階層と呼んでいる」

この瞬間、テル・ダールは割って入るのを抑えきれなくて、「このぐうたらで役立たずの蕩尽野郎め!」

びっくりさせられた後の安堵の笑いが一同からほとばしり出た。

「うわあ、それは精神寄生虫のこと?」マイケルが叫んだ。

テル・ダールは続けた、「そうだね、実のところ彼らは単にあなたや私のようにありふれた魂――他の惑星や体験の場から、転生のためにやって来た者たちだ。彼らはいくぶん常軌を逸した行動様式を採ったので、彼らのペテンのワナに掛かった者の人生は、楽しいものではなくなった。そのワナは、濃密なクモの巣のような波動、または思考が創った幻覚の繭のようなもので、その力に惑わされた者だけを捕らえることができた。わかると思うが、虚構階層をコントロールしている者たちの多くは本当の悪者ではなく、ただひどく怠惰なのだ。彼ら独自のやり方のなかで、彼らが惑わした者たちと同じように、彼ら自身もワナというその現実に貼り付けられたのだ。彼らの天国は、彼らの地獄と同様に非現実的で、最高にご立派な天国でさえも、永劫の時を過ぎれば少なからず退屈なものになってしまった」

虚構階層は、開化した存在たちが現実へ入り込んで、これら不精な暴君たちが創ったワナを解体する役を買って出ないかぎり、見たところでは永続することが可能だ。ワナに掛かった文明というものは、すべての宇宙で、とりわけ三次元世界で頻繁に起こるものだよ」

ジェーランがまた口を開いた。「ワナが壊されると、虚構階層の住人たちは、彼らが創った世界を維持する栄養が何もなくなってしまう。それらの世界は、天国も地獄も一様に崩壊してしまって、それを支配していた暴君たちは、別のどこかへ生まれ変わることを余儀なくされる」

「意識を拡大して潜在的なDNA を活性化する人が増えているので、いま彼らの多くは転生を強いられている。地球の人口が劇的に増えている理由の一つがこれなのだ」

グラシーが聞いた。「それでは、多数のUFO 目撃事例の真実は、人類が自分たち自身についての孤立的で限定的な認識を超えて進化するように、仕組まれたものですか?」

「その通りだよ」テル・ダールが答えた。「それによって、死への恐れも消えることになる、というのは、意識が拡大すれば直ちに、いのちは永遠で、死は幻想――というか、転換点に過ぎないと了解するようになるからね。人類が死を恐れなくなると、虚構階層の暴君たちは最強の武器を失うことになる。人は、死が存在しないと知っていれば、支配されたり苦しめられたりすることはあり得ないわけだろう?」

イナンナは目が開けてきた。「私の一族――マルドゥクだけでなく、アヌ、エンリルそして私たちすべてが、これら虚構階層の一部だったのですね、そうでしょう?」

「その通り、いや、本当にすごいよ!」テル・ダールはイナンナを賛えた。「自分自身や家族の本質に気付くことは、簡単なことじゃない」

イナンナは深くため息をついた。「もし私が、私のちっぽけな頭にひらめいた強迫的で利己的な思い付きの一つひとつをなぞって、戦いに勝って領土を拡張することばかり続けていたら、立ち止まってなぜと自問することはなかったでしょうね」

「それは一般原則だよ君」ジェーランが、彼女を慰めるように言った。「サルゴンに死別し、アッカド帝国のすべてを失ったことがどんなにつらかったとしても、それは君に起こった最善のことだったんだね。あの時、君がひどく苦しんだのは知っている。しかしそれによって、ものすごく進歩したじゃないか――もう何をも誰をも支配する必要がなくなったわけでね」

テル・ダールはイナンナに、同情に満ちたほほ笑みをかけた。「覚えているだろうが、私はいつもあなたを愛してきたよ、イナンナ」

ジェーランは手を伸ばしてイナンナの繊細で青い指に触れた。彼はイナンナが、彼女自身と彼女の一族が地球をコントロールしてきた虚構階層の一部だったことを認める勇気を持っていたことを、大いに誇りに思った。

イナンナは、この醜い真実のすべてに、まだとらわれていた。「もしマルドゥクがアヌやエンリルをやっつけなかったとしたら、彼らは今でも人類を奴隷の亜種として利用していたでしょうね、そうでしょう?」

「そうだろうね」ジェーランは穏やかに話した。「どんな魂も体験を通じて学ぶしかないようだ。これが、根本創造主の美学、そして神秘なんだね。それがいのち存在する理由で、われわれみんなそれを体験しているわけだね」

クラリッサが物思いにふけるように質問して、「私たちの神話の中に、巨大なトカゲについての恐ろしい話、暴虐な爬虫類の話が、どうしてたくさんあるのかしら?」

「人間のからだの中には、」テル・ダールが答えて、「地球の三次元世界で肉体を持った者のほとんどが使用する、爬虫類脳と呼ばれる受容器官がある。この地に転生する者はすべて爬虫類脳を持っていて、その中に、サバイバルつまり勝つか負けるかのための受容器が備わっているのだ。この勝つか負けるかのエネルギーを、論理的な極限まで広げたとすると、暴君とその犠牲者に至ることになる。人間の体を持つ者は誰でも、多少の爬虫類的暴虐傾向を潜在的に持っているものだ。その物語は、意識または潜在意識のレベルで、人体に宿った者にとっては、たいへん馴染み深いものなんだよ。もっと進化した魂は、内在する暴虐的、犠牲者的衝動のコントロールの仕方を知っている。あなたのいとこのマルドゥクは、まだ勉強の余地があるようだね」

「もう一度、言ってみて!」イナンナが笑って言うと、皆がうちとけて、彼女に合わせて笑った。彼らは、新しい知見を柔らかく受け止めるようになってきた。

テル・ダールとタザタは、軽やかな心が、学びや英知へのドアを開くことを知って喜んだ。そして、根本創造主がベールで覆われた自我で時空を超えた永遠のダンスをする際に、創造の中に織り込んだささやかな皮肉に対して、時にはユーモアを感じられるようでなくて人生の何が面白いのかと思った。

テル・ダールとタザタは、地球の住人たちは短期間に学ぶべきことがたくさんあることを知っていた。彼らが内分泌系の中にあるいのちの水を活性化させて、脳の未使用領域を開くべき時だと。あらゆる可能性の世界の、多様な次元の真実を手に入れることは、その勇気を持つすべての人にとって天与の権利なのだ。

人類が本当の主権者になり、内なるを信頼し、識別力を身に着ける時が来たのだ。これが新時代の真意だった。古い皮袋に新しい酒は入れられない――人間のからだ自体が変わらなければならないのだ。

根本創造主は、新鮮な表現形態の中に入るべく前進する用意ができていた。最強の魔術師として根本創造主は、その神聖な幻想を拡大することを望んでいた。この三次元の地球に住む者たちには、既知のものを超えて現実の外皮を押し破る覚悟が求められていたのだ。

古い幻想から飛び出す勇気のある挑戦的な人々にとっては、潜在的なDNA を活性化して脳の残りの部分を開き、先進情報収集器となる時がやって来たのだ。の永遠で不滅の愛の力は、彼らが主権者として進化し、もっと楽しむようになることを許していたのだ。

 

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