「核」のパラドックス

 

インドやパキスタンの地下核実験に強烈に抗議する広島や長崎の市長が、米、韓、日の三国が北朝鮮に核拡散防止条約[NPT]への残留と引き換えに軽水型原子炉を供与するという1994年の決定に対して、何のコメントも表明しなかったのは、「核の本質」についての一般的な理解を代表しています。この三国の決定ほど倒錯した行動は、類を見ません。「核(原爆)」開発の歴史は、「原子力発電(原発)」開発の歴史と表裏の関係にあり、「原発」の拡散を防止しないで、「核拡散」を防止することは不可能です

 

印、パ両国の実験を受けて、国連安全保障理事会は、「両国に核保有国の地位がないことを思い起こす」という、理解困難な決議を採択しました。現実には、「核保有国」は、米、ロ、英、仏、中の「公認5国」および印、パの他に、少なくとも7カ国、合計14カ国あります。国連が、NPTを盾にして独善的な地位の保持に執着する「5国」に引きずられて、事実から目をそらし、「その日暮らし」の対応に終始している間に、事態は、人類の手におえないほど深刻なものになっています。

 

NPTが今日の事態を招いた、とも言えます。動機不純なのです。「5国」の「核独占」の見返りに、「平和利用」を、約束であり権利であると、高々と謳い上げました(第4条)。「核」の性格を考えれば、これほど矛盾した話はありません。ところが、この条約が内包するトリックに、「締約国である各核兵器国」も「締約国である各非核兵器国」も、見事に引っかかってしまいました。「5国」だけが「核」を持つのだから、他には「核」は無いと、自己暗示をかけたのです。ご存知のように、信念体系の中で、自己暗示ほど強力なものはありません。アメリカCIA(中央情報局)ですら、インドの地下核実験を、事前に察知できませんでした。これが、怠慢ではないかと、アメリカで問題にされています。

 

当事者が一番よく知っていることですが、プルトニウムは、「燃料」であり、同時に「核(弾頭)」の素材です。そして、原子炉は、「核素材」の製造装置です(エネルギーも生みますが)。それが、「核」の本質的な特性なのです。以下で述べるように、インドとパキスタンの「核」の歴史を見れば、これが歴然とします。

 

すべては、1953年に当時のアイゼンハワー大統領が表明した、「アトムズ・フォー・ピース(平和のための原子力)」プログラムに始まります。これは、商業的利用に限定するという誓約をもとに、原子力利用技術へのアクセスを可能としたものです。

 

インド1956年に、カナダとアメリカの支援で、40MW(メガワット)の実験炉の建設をスタートさせました核反応の減速材となる重水を供給したのはアメリカです1963年に、タラプールに建設する210MWの沸騰水型原子炉2基を米GE社に発注した際、アメリカとの間で、使用済み燃料から採取されるプルトニウムは、核兵器には用いないという協約を結びました。この協約が機能しなかったことは、ご承知の通りです。インドは今では、運転中の「原発」を10基保有し、4基の増設を計画しています。

 

使用済み核燃料からプルトニウムを抽出する施設については、1958年に、施設の設計と資材の調達を開始し、1964年に、トロンベイで運転を始めました。核兵器に繋がる、「二面利用能力」を獲得したわけです。このプルトニウム技術を、インドの科学者に教育したのは、アメリカです。更に大型のプルトニウム抽出施設をカルパッカムに建設し、1997年には、操業前テストの最終段階に達しました。プルトニウムは、「直ちに」原爆として利用できる「有用な」物質です。「原爆」を造るのに一番大変な作業は、プルトニウムを入手することです。その先は「器用な物理コースの卒業生なら誰でもやり遂げられる」と言われています。ちなみに、ウラニウムを「原爆」にするには、天然ウランの中に0.7%しか含まれていない、放射性のウラン235--原子量が235のウラニウム--90%の濃度まで濃縮する必要があります(これを高濃縮ウラン:HEUといいます)。

 

国内に豊富なウラニウム資源を保有するインドは、核燃料の自給を目指して、1980年代にウラニウムの遠心分離濃縮技術を獲得し、トロンベイとマイソールに施設を建設しました。1992年には、マイソールの施設が濃縮ウランの製造を開始し、核燃料の自給体制を確立しました。

 

この間、1971年の第三次インドーパキスタン戦争東パキスタンが、バングラデッシュとして独立1974年のインドの地下核実験の成功などを受けて、カナダとアメリカは、技術援助や重水の供給を中止しましたが、フランスやソ連(後にロシア)が新たな協力者として登場しました。特にロシアは、100万キロワットの原子炉2基の建設計画に、深くコミットしています。最近になって、30億ドルといわれる取引金額の85%をカバーする与信枠の付与に同意したので、この商談は近くまとまる公算が濃厚となりました。ロシアのこの行動に、前々からアメリカが反対している理由を考えてみてください(アメリカが提唱した「平和利用」なのに!

 

インドは既に、「兵器グレード」のプルトニウムを370キログラム保有していると言われています(その由来は、「原発」から出る使用済み燃料の再処理以外には考えられません)。これは、「原爆」74発分に相当します。こうして、199851113日の、インドによる地下核実験が行われたのです。

パキスタンについても、状況は本質的に同じです。インドとの主な違いは、開発のスタートが遅かったこと1971年の第三次印パ戦争の「屈辱的な敗北」がきっかけ、そして最近まで、「高濃縮ウラニウム」による「原爆」製造を指向したことです。カラチに建設された最初の原子炉を供給したのはカナダですが、カナダはそのあと手を退き、上記の1974年(インドの地下核実験)以降の状況の中で、遠心分離装置の主要設備を供給したのは、ドイツとイギリスです。

 

19941月に、ブット首相は、「原発」についての公の論議を禁止しました。それ以来、パキスタンの「核」の実状は、半ば闇に包まれていますが、疑いのない事実は、中国が、パキスタンにおける核開発の最大の協力者として登場したことです。カシミールで、インドとの国境紛争を抱える中国のパキスタン支援は、それなりの筋が通っています。パキスタンは、コンパクトな核弾頭の製作に適したプルトニウムの取得を目指して、イスラマバード西南のクシャブに「軍事用原子炉」を建設していました。この炉は、ほぼ完成しているとみられていますが、これに必要な重水を商用のカヌップ[カラチ]の炉に過大に供給することによって、迂回供給したのではないかと、米下院の証言などで問題にされています。しかし、1998528日と30日の地下核実験は、準備期間などから判断して、「高濃縮ウラン」によるものと推測されています。

 

使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出する各国の行動が、「原爆(核弾頭)の製造を目的としたものではない」という釈明は、かつては一定の説得力を持っていました。つまり、将来のウラニウム資源の枯渇、価格の高騰を考えれば、通常の商用原子炉で生成されるプルトニウム天然ウランの99.3%を占める「非核分裂性」のウラン238が、炉の運転に伴い「核分裂性」のプルトニウム239に転換したものを、有用な資源として活用しない手はない、というものです。このようなプルトニウムの在庫が増えすぎないように、専らプルトニウムを燃料とする「高速増殖炉」を開発して商用発電に利用する、というのが当初の筋書きでした。この筋書きは、あっけなく頓挫してしまいました。

 

第一に、「高速増殖炉は実用化できない」ことが事実上明白になったことです。この炉を冷却する材料は、水(水蒸気)に触れると爆発的に反応する金属(液体)ナトリウムしかなく、その扱いの難しさのため、開発を進めていた主要国が次々と戦線を離脱しました。そして、「最先進国」フランスが、19982月に「高速増殖炉スーパーフェニックス」の即時廃止と、その後の解体を正式に発表したことで決定的となりました。金属ナトリウム漏洩の恐ろしさは、はからずも、199512月の、日本の高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故で「実証」されました。

 

第二に、米ロ両国の「核軍縮」の進展を受けて、「世界中にプルトニウムがあふれかえる」状況となりました。ウランの市況も、世界的な「原発」の退潮を受けて、低迷しています。このなかで、両国は、ミサイルの核弾頭から取り出した「余剰プルトニウム」を、どんなに費用をかけてでも、廃棄することで基本合意し、1997年に実行に着手しました。

 

アメリカの計画は、プルトニウム在庫の約半分、50トンを25年かけて処分するというものです。その総費用は22億ドルと見積もられています。処分の方法は、ハイブリッド方式(両面作戦)すなわち、(1)MOXといわれるウラニウムとプルトニウムとの混合燃料に加工して、商用原子炉で燃焼させる方式と、(2)セラミックを混合して固めたプルトニウムを、原子炉から出る放射性廃棄物に混ぜて、大型の容器(キャニスター)に詰めて「無力化」する方式との、組み合わせです。プルトニウムの資源化に固執するロシアとの妥協点を探るうちに、この形に落ち着いたのです。このため、MOX燃料の加工施設を新たに造る必要があり、また、責任部署の米エネルギー省(DOE)は、商用炉の所有者ではないため、アメリカでは実績のないMOX燃焼」の民間展開に伴う、安全性や経済性の問題など、前途に多大の困難が予想されますDOEは、1999会計年度(9810月ー999月)の予算としては、約1億7千万ドルを要求しています。これには、ロシア支援のための費用も含まれています。

 

ロシアのプルトニウム在庫は、アメリカの2倍以上と言われており、同国の経済事情を考えれば、この計画の遂行には、アメリカ以上の困難が予想されます。しかし、そもそもこの話は、両国がほぼ同等のペースで「余剰プルトニウム」の処理を進めなければ、アメリカの当局者が言うように、一方の当事国が「戦略的に不利な」立場に追い込まれるので、成り立たなくなります。このように考えると、実際の処理期間は、計画より長引く可能性が強く、その間、世界は「余剰プルトニウム」の脅威に曝されることになります。

 

この状況の中で、依然として、英仏を先頭とする各国が「使用済み燃料」を再処理して、プルトニウムの在庫を増やし続けています。核弾頭から取り出された「兵器グレード」に対して、「原子炉グレード」という違いはありますが、その差は、前者の方を「核弾頭設計者が好む」、という程度のものだと言われています。これは、印パの「再処理」への執着を見れば、明らかでしょう。このため、「核」のすべてを知るアメリカは、上記の削減対象に、過去(再処理をやらないことに政策転換する以前)に「再処理」で得られたプルトニウムも加えたのです(1994627日の記者会見で、米エネルギー省の長官が、「原子炉グレード」のプルトニウムを武器として使用する実験に、既に1962年に成功している事実を明らかにしています)。

 

イギリスが、セラフィールドの再処理工場で取り出したプルトニウム在庫は、既に50トンあります。あと10年で、2倍の100トンになると言われています。これは、ほぼ原爆10,000発に相当します。いったい、これをどうしようというのでしょうか? 政府も、電力会社も、信頼できる将来計画を何も持たず、深刻なリスクを冒し続けているのが実態です。この状況は、フランス、ドイツ、日本なども、全く同じと言ってよいでしょう。

 

日本の「再処理」は、東海村の実験的な施設で処理する分を除いて、大半を英(セラフィールド)、仏(ラ・アーグ)に委託してきました。よく知られているように、委託生産したプルトニウムを受取るとともに、発生した放射性廃棄物も引き取る義務があります。米、仏に次ぐ、世界第3位の「原発」保有国の日本は、すでに事実上、英、仏に近いプルトニウム在庫を保有しています1994年から始めた、プルトニウムの需給見通しの公表は、ここ3年連続で中止しています)。更に、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場が完成すれば、「プルトニウムの自給体制」が確立することになります(この施設は、当初計画より5年延期して、今のところ20057月の稼動予定となっています)。

 

高速増殖炉が破綻した現在、プルトニウムを「平和的に」利用する手段は、ウラニウムとの混合燃料つまりMOXを、現有の軽水炉で燃やすしか手段がありません。MOX燃焼(日本では一般に「プルサーマル」と言われる)」の安全性については、まだ十分の評価が確立しておらず、アメリカを初め各国も、全面的な実施については極めて慎重です。日本の一部の電力会社が、実証試験を省略して、短兵急に実行しようとしているのは、情報公開とアセスメントについての、日本特有の社会的システムの脆弱性に便乗しているに過ぎません。そもそも、再処理のコストとMOX燃料への加工コスト(ウラン燃料の46倍と言われています)を考慮すれば、「MOX燃焼」が全く採算に乗らないことは、世界の常識です。政府からの補助金または電力料金への転嫁)があって初めて成り立つわけですが、再処理が無ければ(プルトニウムが無ければ)、やらないで済むことなのです。「核拡散」の問題があって、溜まりすぎたプルトニウムを放置できないから、「MOX燃焼」が考え出されたというアベコベの話です。

 

問題はこれだけではありません。再処理をやることによって、放射性廃棄物の「カサ」が増えるのです。日本でまず問題になるのは、英、仏への再処理委託に伴って返還される、「中・低レベル放射性廃棄物」で、既に返還が始まっている「高レベル放射性廃棄物」の50倍あると言われています。フランスは、全量を返還する方針です。イギリスは、「サブスティテューション(置き換え)」といって、それらを自国内で処理する代わりに、日本に返還する高レベル放射性廃棄物を約15%上乗せする方針ですが、それらを処理するサイトの選定が行き詰まっています。一方、日本での受入先と処理方法は、まだ白紙の状態です。

 

別の大きい問題は、原子炉から取り出した「燃料集合体」を、冷却のため、4年以上貯蔵するプールの容量です。日本全体では、原子力発電所の敷地内のプールの容量は、約10,000トンですが、既にその6割は詰まっています。毎年900トンずつ追加されるので、個別の発電所では、パンク寸前のところもあります。これに対して、発電所とは別の場所に、新しいプールを建設するプランもありますが、例えば5,000トンの設備の建設、運転(40)および解体の費用は、約3,000億円と見積もられています。これらはすべて、電力料金に跳ねかえってくるのです。

 

その先に、もっと深甚な問題があります。高レベルの放射性廃棄物を最終的に処分する場所が、どこにも無いのです。「原発」が、「トイレ無きマンション」と言われて久しいですが、その状況は、「最終処分」が具体的な日程に上ってきた現在でも、いっこうに変わっていませんむしろ、何も考えないでスタートしてしまった、と言うべきでしょう国土の広いアメリカでさえ、まだ答えを得ていません。候補地をネバダ州の”Yucca Mountain”に絞り込んで、地中深く掘ったトンネルの「研究室」で、その地層(サイト)特有の条件において適合性を検証する「サイト・スペシフィックな調査」を始めたところです。日本は、北海道幌延町に「最終処分(地層処分)」する施設を作る計画を、地元の合意が得られないため取り下げて、「研究目的」に限定した施設とすることに方向転換しました。しかし、本当の研究は、アメリカのように、「サイト・スペシフィックな調査」でなければ意味が無いわけで、幌延町を最終処分地にしない以上、「研究」の意味は極めて限られたものになるでしょう。結局この決定は、日本には最終処分する場所が無いことを事実上認めたものと言えるでしょう。しかしこれは、日本だけの問題ではありません。

 

「最終処分(地層処分)」の調査が、最も進んでいるのはスウェーデンです。この国は、アメリカと同じように、再処理をしないで処分する「ワンスルー」方式を採っています。1992年以降、「志願(施設建設に伴なう巨額の投資を期待して)」によって出てきた2地点の、第一次適合性調査を実施しましたが、いずれも、1997年までに、住民投票によって拒否され、残る4自治体を2自治体に絞り込む作業を進めています。

 

イギリスは、「再処理先進国」ですが、「中・低レベル放射性廃棄物」の埋設処分地として、セラフィールド再処理工場の隣接地に的を絞って、ボーリングによる地層調査を行いました。しかし、公聴会で安全性への疑問が続出し、環境相は19973月に、この計画の中止を決めました。「高レベル放射性廃棄物」については、ガラス固化体にして日本への返却を始めましたが、イギリス自身のものについては、貯蔵方法も埋設場所も未定です(セラフィールドで50100年間、冷却保存することにしています)。

 

フランスは、「中・低レベル放射性廃棄物」の埋設処理を、ラ・アーグ再処理工場の隣接地で数十年間実施し、1994年に閉鎖しましたが、後始末の段階で、放射能漏洩と土壌汚染が問題化し、300年間の監視体制をとっています。設備仕様を見直した新サイトは、既に操業しています。「高レベル放射性廃棄物」については、調査対象として3地点を選定しましたが、1997年地元でのヒアリングの段階で、進め方について異論が出て、調査は未着手の状態です。

 

ドイツは、日本同様、再処理の大部分を英、仏に委託しています。返還される「高レベル放射性廃棄物」の埋設地として、北ドイツの旧東独との国境沿いにある岩塩鉱に絞って、1986年から調査しています。しかし、地方政府は絶対反対の立場で、あらゆる法的手段に訴えて妨害するという状況にあり、新政府は候補地を見直す方針を打ち出しました。

 

現在「原発」は、31カ国にわたって、431基が稼動しています(1996年末時点)。アメリカ(107基)、フランス(59)、日本(54)の順です。そのあと、イギリス(35)、ロシア(29)、ドイツ(20)と続きます。それらが、行き場所のない放射性廃棄物を、日々に排出し続けているのです。仮に、炉の数が一定であっても、廃棄物の「在庫」は、増え続けます。更に、「再処理」によって、廃棄物の総量が増えるだけでなく、プルトニウムという「危険物」を、この地球に増やし続けています(イギリスのプレスコット副首相は、いみじくも「不義の武器」と表現しました)。人類は、自らの手で「核の危険」を増産しながら、口では「核廃絶」を叫んでいるのです。ちなみに、「5国」とインドおよびパキスタン以外の、「再処理(委託を含む)」によるプルトニウム保有国は、日本、ドイツ、ハンガリー、スイス、ベルギーおよびオランダです。公表はしていないが、事実上「核」を保有しているとみられている国は、イスラエルです。また核開発が疑われている国として、イラン、イラク、リビアおよび北朝鮮があります。過去に核開発を行っていたが、現在は放棄したと信じられている国は、カザフスタン、ベラルーシ、ウクライナ、ブラジル、アルゼンチンおよび南アフリカです。

 

各国の首脳が、一致して公の目標としている「核拡散防止」そして「核廃絶」を、気安めでなく、本気で実現する気があるなら、国連の場で議論して合意に漕ぎ着けるべきターゲットは、明白ですその議論を、極めて透明性の高い形でやる必要があります。議論の結果を先取りして、「核廃絶条約」として以下のようにまとめました。真の「核廃絶」は、このケース以外にありません。

 

1.         使用済み核燃料の再処理を即時中止し、再処理設備を閉鎖する

2.         現にミサイルの弾頭に装填されているものを含め、すべてのプルトニウムと高濃縮ウラニウムを廃棄する---これは、アメリカの処分計画にある、「無力化(セラミック固化、キャニスター詰め)」方式による

3.         既に製造された「MOX燃料」と製造設備を、上と同様に廃棄する(当然、「MOX燃焼」は行わない)

4.         高レベル放射性廃棄物の「地層処分」を行わない(ガラス固化、キャニスター詰めで地上保管---するしかない)

5.         高速増殖炉、新型転換炉等を閉鎖する(日本とロシア)

6.         建設中の「原発」を閉鎖する(36---1996年末時点)

7.         運転中の「原発」の、離脱(フェーズアウト)計画を定め、実行について協定する

8.         上に合わせて、ウラニウムの採掘を段階的に中止すると共に、すべてのウラニウムを段階的に廃棄する

9.         全過程が終了するまでの期間、ウラニウム、プルトニウムを含むすべての「核関連材料」を、国際機関で管理する(現在は、「5国」特に英、仏、中のものは、闇の中に放擲されていることに留意する)

 

これを文字どおり実行すれば、長期にわたって、目を見張るような費用の節減になります。「核」からの離脱によって「消えたコスト(得られた利益)」のあまりの大きさに、愕然とするでしょう。今までやってきたことが、何だったのかと。また、浮上してきた後始末の費用(離脱に関係なく、早晩必要となるもの)の巨大さに、認識を新たにするでしょう。この合意を、誰よりも歓迎するのは、各国の電力会社と軍の関係者でしょう。何しろ、「行き掛かり」から生まれた「不本意な結果」のツケを、一手に背負わされているのですから・・・。

 

もしこの合意が、早急にできなければ、人類の未来は、決して明るいものにはならないでしょう(高レベル放射性廃棄物の「地層処分」が、「地下核実験」と同じぐらい危険な行為であることに、地球の科学は気づいていません---庭で居眠りしているあなたの体に、蟻の軍団が穴を掘って核物質を埋設する状況を考えてみてください)。

 

「原発」からの離脱といっても、驚くほどのことではありません(人類がこれまでやってきたことの方が、驚くべきことです)。先進国の中にも、ノルウェー、デンマーク、ルクセンブルク、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランドのように、「原発」を持たない国があります。現に12基を保有するスウェーデンは、1980年の国民投票で、2010年までに「原発」から離脱(フェーズアウト)することを決めました。そして政府はいま、最初の1基として、大手電力会社シドクラフトと同社のパーセベック原発の閉鎖に向けた交渉に入っています(電力供給の「原発依存度」が46%の、この国が!)。ドイツの新政権は、段階的に原発から離脱する施策の一環として、2002年までに停止第1号を出す方針を打ち出しました。スイス政府は、199810月に、現在稼動している5箇所の原発をすべて閉鎖する方針を決めました。

 

日本の電力供給における、「原発依存度」は約36%です。しかし、都市ガスやクルマの燃料のように、電力に無関係なエネルギー利用もあるので、総エネルギーの「原発依存度」は、12%です。つまり、12%エネルギーを節約すれば、「原発」から離脱できるわけです。「エネルギーの安全保障(調達の多様化)」という課題もありますが、「原発」から離脱することの方が、火急の課題です。

 

この節約の方法として、---CO2削減についても同じことが言えますが---GDP(国内総生産)の規模と産業連関を固定的に考えて、各産業セクターに対策を割り振って達成しようとするやり方は、気安めにはなっても、決して成功しないでしょう。経済の規模は、最終需要である「個人消費」が規定していることに着目すれば、答えは簡単に出ます。個人が変わることによって、すべてが変わります。そのための啓発手段やインセンティブは、無数にあります。経済の「マイナス成長」が、「成果」として出てくるでしょう。これは当然のことで、物理学の定理のようなものです。国民や為政者がこの認識に到達することだけが、課題です(このシリーズの「景気」はタスマニア・タイガー(1および(2参照)スウェーデンは、既にこの域に達しています---原発からの離脱と、核廃棄物処理について次世代につけを回さないという国民的合意を「経済」の前に置くことができる人々です。

 

いま人類の未来にとって、「核」ほど脅威のあるものはありません。それを「核兵器の問題」に矮小化し、差別化しているため、「脅威」の全体像が見えにくくなっています。また、「核」の周辺で、世界的に「秘密主義」が跋扈していることが、不透明さに輪をかけています。これは、極めて危険な状況です。 この点アメリカ政府は、原発と戦略核という本質が同じものを、一括してエネルギー省の所管にするなど、真実に対して正しい姿勢で臨んでいます。その姿勢の現れというべきか、水爆材料に使うトリチウム(三重水素)を、テネシー州の政府所有の原子力発電所で生産することを、19981222日に決めました。冷戦終結で1988年以来軍事用トリチウムの生産を停止し、国内の生産施設も閉鎖しましたが、トリチウムの自然崩壊(半減期12)で減っていく分を補充しないと、核兵器の性能が落ちるというのがその理由です。

 

結局、残念なことですが、地球人類は、「核」つまり「プロメテウスの火」を扱うことができるレベルに達していないわけです、科学技術のレベルと精神のレベルの両面において。人類が「核(原子力)」を扱うことが許されるのは、核反応で生成する有害な放射性物質を、それを構成する素粒子に分解して、無害な物質(たとえば珪素)に再構成する技術をマスターした場合だけです。しかし、宇宙で既に確立されており、いま人類が最も切実に必要としているこの技術が、地球人類に与えられることは決してないでしょう。なぜでしょうか? それは、この技術を手にした人類が、疑いなく最初にやることが、見透かされているからです。「人間を消す」ための応用技術の開発に、血道を上げるだろうと・・・。

 

[このページのトップへ戻る]
[シリーズ第1部「混迷の星」の目次(contents)]
[ホーム]

Copyright(C) 1998, 1999 Eisei KOMATSU